Essay

個人経営が不安定な理由

一部ネットでは、会社員を辞めたことを武勇伝のように語り、それを受けて独立・起業が時代の先端であるかのように錯覚し、なんの経験もないまま新卒、即起業という人が増えてます。新卒どころか、「大学は無駄」という言葉を信じて、卒業も待たずに中退して独立する人までいるようです。

別に見ず知らずの人がどう生きようが、私にはなんの関係もないけれど、私は親が個人事業主だったため、幼い頃からその大変さを見て育ってきた関係からごく素朴な疑問として。

なんでそんなに起業に憧れるの?
社会保障の手厚い安定した会社に勤務したほうが、ずっと楽じゃないって思うのです。

サラリーマンの方が超絶ラク

個人事業主イコール「一国一城の主として自由に働ける」と思いきや、実は違います。

病気その他で働けないと、たちまち収入が途絶えます。休みの日だってあってないようなもの。8時間労働なんてクソ喰らえ、起きている時間が勤務時間という超ブラックな労働環境が親の仕事でした。来る日も来る日も仕事仕事。新参者が既存の場に参入するためには、そうやって身をこにして働くしかなかったのです。

もちろんその甲斐あっていい思いをした時代もありましたが、そろそろ終わりを迎えようとしています。時代の恩恵を受けた仕事ほど、時代の流れ次第で風向きが変化するのです。

家族経営につきものの問題

親が始めた仕事を兄が継ぎ、夫婦で経営をしてきました。一時期は順調そのものでした。しかし大手には勝てず。売上も少しずつ減少したことで息子は跡を継がず、大企業に就職しました。

それはそれで寂しかったようですが、これも時代の流れ、息子には息子の人生があると諦め「これからは夫婦で食っていける分だけ稼いでのんびりしよう」と思っていた矢先…。

先週突然兄嫁が亡くなりました。死因は心筋梗塞。自宅で倒れ、そのまま帰らぬ人に。ほとんど即死だったそうです。

あまりに若すぎる突然の死。それまで元気に生活していただけに、兄の落胆ぶりは甚大です。今はどう言葉をかけていいものやら。私も含め、周囲は静かに見守っている状態です。

そんな精神的な落ち込み以上に考えなければならないのは仕事のことです。

今まで夫婦で経営してきてその片割れがいなくなるということは、二輪車のタイヤが一つ欠けるも同然。兄一人では前にも後ろにも進めません。

しかし兄がこれから生きていく上で、どうしたってお金は必要。自分の代で終わらせることを考えていたため、人を雇って続けるだけの収入もなく…。

それでいて一人ではできない職種ゆえ、兄一人では経営は困難です。厳しいようだけど廃業して、どこかに就職するしか生きる術はないでしょう。

このような問題は兄の仕事だけでなく、個人事業主にとって避けては通れない道です。

たとえば昔栄えた商店街などを見れば一目瞭然。後継者不足や配偶者の死で廃業を余儀なくされた個人経営者が土地や建物を売り払って、かつての商店街は駐車場やマンションに姿を変えてます。

始まりがあれば終わりはある

後継者不足や配偶者の死など、起業前のまだ若い人にはピンと来ない話かもしれません。しかしどんな年代についても、これだけは言えます。

物事には永遠はありません。始まりがあれば必ず終わりは来ます。これは世の定めです。

仮に独立して5年10年くらいはなんとか運良く食いつないだとしても、50年60年と、ずっと同じように続けられるのは、ほんのひと握りの人だけ。その間生身の体ですから、病気をすることもあれば怪我をすることもあるでしょう。人は、いつまでも若くて元気ではいられないのです。

まして兄のように、一度も社会に出たことがないまま家業を継いだ人間が、これからシフトチェンジして就職するのは相当厳しいでしょう。潰しがきかない年になっていきなり社会に放り込まれる過酷さを想像すると、なんとも言葉にはできません。

根拠のない自信は5歳児の万能感と同じ

「独立最高!」「ブログで○○円稼ぎました」「失敗はいくらでもやり直せる」

ネットを見ると、やたら独立を勧める人がいます。そのような文言を目にするたび、他人の人生に関わることなのにと、実に無責任だと感じます。

それを間に受けて、なんの経験もスキルもないのにそれを実行する側にも問題があるけれど、「この人たち、怖くないのかな?」と、いつも思います。実にめでたい面々です。

これから乗ろうとしている船が、実は泥舟かもしれないとは考えないのでしょうか?

まぁ考えないから「行動あるのみ」として実行に移すのでしょうけど、それを見ると自分はなんでもできるつもりになってる5歳児のように見えます。いわゆる万能感というヤツですが、なんで5歳児がそうなるのかといえば、世界が狭く、経験値が乏しいからです。

経験がないのは社会では致命的

今の時代、いくらでも情報は得られるからわかった気にはなれます。しかし社会を知らない・経験がないということは、ノウハウコレクターではあっても知恵がないも同然。知恵と知識は違います。

独立・起業が悪いとは言いません。目標や夢を持つのはすばらしいことです。ただいずれそうしたいという目標を持つなら、まずは経験を積んで知識以上にスキルと知恵をつけることです。独立するのはそれからでも遅くはありません。物事には手順というのがあります。ひとつひとつの手順をていねいに踏んでこそ根拠のない自信ではない本物の自信が得られるのです。

そうなれば、5歳児の万能感に満ちた目線で見た世界とはまるで違う世界が見えてくるはずだし、後継者や配偶者に頼ることなく、いざとなれば自分一人でも事業は続けていけるようになってるはずです。

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蒼 じゅりあ
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サイト名の「Un Jour」とは、フランス語で「ある一日」という意味です。日々の記録・エッセイをまったりと綴っていきます。